ヨーロッパではいま、各国で極右政党が躍進し、ネオナチの活動も活発化しています。アメリカ大統領選でドナルド・トランプが登場して来たのにも、イギリスで労働党議員が殺害されたのにも、背景には「国家主義」の台頭があります。これは、雇用状況の悪化や難民問題の波及などによって、くすぶり続ける民衆の不満が、そうした方向に向かうからです。
過去の歴史をみても、その国の経済状態が悪化すると、必ず「国家主義」的な雰囲気というものが台頭して来ます。ヒトラーの率いたナチはその典型です。日本は現在、OECD(経済協力開発機構)加盟国中、相対的貧困率でメキシコ、トルコ、アメリカに次ぐ第4位。非正規雇用の割合も4割を超え、今や堂々たる貧困大国なのです。
安倍総理はそのことを認めようとはしませんが、格差は確実に広がっており、その大衆不満の一部は、人々を「国家主義」へと向かわせているのです。どうしてそういうことが起きるかと言うと、個人的な感情の苛立ちが、そのまま国家間の関係にスライドし、単純に置き替えられてしまうからなのです。
自分がいま経済的な問題やその他で痛めつけられている。どうにもイライラするし腹立たしい。ちょっと考えれば、その原因は今の政治にあるわけなのですが、構図が単純ではないために不満をぶつける矛先が判らない。ところが国際間の軋轢は、敵と味方に単純化しやすいので、自国にシンパシーを寄せ、他国をやっつけてやりたいと思うようになるのです。
政治は、この人間感情の動きを巧みに利用します。「国内に問題があった場合には、外敵を強調しろ」というのは鉄則で、日本では、北朝鮮、中国、韓国、ロシアがいつもそのターゲットにされる。これは政府の意向を借りたマスコミが、意図的に煽っているもので、その背後には、ジャパン・ハンドラーズ(日本を操るアメリカ人)の存在があります。
「国家主義」的な勇ましい発言をする者は、そこに自分の感情を仮託しているので、言うことで多少スカッとする、溜飲が下がる、という面があるのですが、不満をぶつける相手を間違えているのです。自分がまんまと利用されていることに気づいておらず、単純な感情的反応を、単純な「国家主義」的な図式に置き替えているだけなのです。
しかし、これまでにも何度も書いて来ましたが、マスコミが伝える国際報道などは嘘八百で、国際政治には必ず裏がある。その裏にはさらに裏がある。そして裏の裏には奥がある。その奥には奥の奥がある。といったふうで、とてもじゃないですが、そんな単純な図式では本当のことは理解できないのです。
ですから、「国家主義」に目覚めた方には、そこに、自分が優位に立ちたい、他者をやっつけてやりたいという感情が乗っかってはいないかを、できればチェックしていただきたいのです。
そもそも「国家」とは何でしょうか? それは単なる概念です。「国家」というものが、何か見える形でどこかにあるわけではないのです。日本は島国で単一民族ですから、「国家」と言ったときに、ある種の同一のアイデンティティ・イメージを持ちやすいことは確かです。
しかしそれが、そのまま世界の常識というわけではありません。ヨーロッパでは国境線はしょっちゅう変わって来ましたし、中東諸国などは、第一次世界大戦の最中に、オスマン帝国の分割をめぐって、イギリス、フランス、ロシアが秘密裡に協定を結び、勝手に国境を線引きしたものです。つまり「国家」など、極めてあやふやな概念に過ぎないのです。
しかし、外国旅行をするためには、現状「国家」が発行したパスポートが必要です。ですから「国家」を完全に無視することは出来ません。けれども「国家」をあまりにも強調する者には、それなりの意図があるということに注意していただきたいのです。それによって、利用されるのはいつの時代も一般の民衆なのです。それは太平洋戦争で、既に充分体験して来たはずではないでしょうか?
対立が行き着く果ては「戦争」なんですよ。ですから、そのことをよく考えて、単純な「国家主義」ではなく、世界から愛される日本人、世界から尊敬される日本人、世界のお手本になれる日本人、そのようなアイデンティティを持つにはどうしたらいいかを、未来に考えていってはどうでしょうか?