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若冲のいのちの讃歌

 

伊藤若冲(いとう じゃくちゅう:1716 - 1800年)に関する番組は殆ど観たと思っていたのですが、17日に再放送があった『若冲 いのちのミステリー』は、どうやら見逃していたらしく、新しい若冲像を知ってとても感銘を受けました。

 

若冲と言えば、これまではその描写力の凄さや超絶技巧にばかりスポットが当てられていました。私も主にその部分に惹き付けられていたのですが、番組を見て、若冲が一貫して「いのちの讃歌」をテーマにしていたことを知り、見方が変わりました。なるほど、そう思って見ると、確かに若冲のどの絵にも「いのちの讃歌」が歌われているのです。

 

10年の歳月を掛けた代表作、全30幅の『動植綵絵(さいえ)』シリーズには、『群魚図』『池辺群虫図』『貝甲図』といった、まるで図鑑のように多種多様な生き物を一枚の中に収めた絵があるのですが、単にたくさんの生き物を並べたというのではない、多様なものが仲よく揃ってそれで世界が成り立っているというメッセージが、ユーモアとともに示されているのをはっきりと感じます。

 

極めつけは『鳥獣花木図屏風』。例の枡目描きという技法で描かれた異色作です。これと同様のモチーフの絵はもう一幅あって『樹花鳥獣図屏風』と名付けられています。前者はプライス・コレクション、後者は静岡県美術館所蔵で、私は両方とも観ています。

 

この枡目描きという技法は、西陣織の下絵から着想を得たのではないかと言われていますが、私は単純に、モザイクタイルを模して、タイルの立体感を平面で表現することに挑戦したのではないかと考えています。なぜかというと、『鳥獣花木図屏風』の周囲に描かれた文様はペルシャ柄で、そうであれば、若冲がペルシャタイルを見た可能性があると思うからです。

 

と、それは私の推論なのですが、今回の番組では、実に驚くべきことが指摘されていました。この『鳥獣花木図屏風』は、なんと『創世記』の天地創造にインスパイアされて描かれたのではないかというのです。江戸時代、蘭学の勃興期にゴットフリートの『史的年代記』が舶来し、その挿絵に殆ど同じ構図の絵があり、若冲の知人がこの本を持っていて、若冲はそれを見たのだろうというのです。

 

そうだとしたら、『鳥獣花木図屏風』『樹花鳥獣図屏風』が示している「いのちの讃歌」というものが非常によく解るのです。若冲には空白の2年間というのがあって、その間は丹波に行き自然を徹底的に観察したらしい。そういう下地があって、『動植綵絵』を手掛け、そして70歳を超える晩年になって、西洋からやって来た書物の中に天地創造の挿絵を見た。その時、若冲は「あ、俺と同じだ」と思ったのではないでしょうか?

 

多種多様な動物が、争うことなく、楽園に寄り集い、「いのちの讃歌」を歌っている。それが、地上の生命の始まりだと言っている。そのワクワクするような喜び、子どものような視線を、まるで動物の絵本のようなタッチと、枡目描きの遊び心に込めているように、私には思えるのです。