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空間の「居心地のよさ」を構成するもの

居心地のよい空間というものを、あなたはどう考えるでしょうか? 明るい陽射しが差し込む広々とした空間でしょうか。あるいはIKEAで調達したおしゃれな家具調度品で統一された空間でしょうか。それとも一見ゴチャゴチャしているように見えるけれど、お気に入りのグッズに囲まれた空間でしょうか。

 

いずれにせよ、現代では主観を第一に「居心地のよさ」を決めているであろうことは間違いありません。「居心地のよさ」というのは、その空間から感じる自分の主観なのだから、主観を第一に考えて何の不都合があろうか。そのように考えられるかも知れません。しかし、一昔前はそうではなかったのです。

 

今は、なんでもデジタル発想ですが、昔の設計はアナログでした。アナログということは、幾何学をベースにして図面を書いていたということです。この幾何学の中に、すでに「美」の追究というものが、繰り返し徹底して試されて来たのです。

 

今や世界標準となった7音階(半音で12階)の発見者が、ピュタゴラスだということをご存知でしょうか? 心地よく感じる和音を追究していった結果、倍音が鍵であることを掴み、これを計算と実験によって、1オクターブを12分割する振動数についての法則性を導き出したのです。

 

ピュタゴラスは「美」は幾何学に還元できると考えました。なぜならば、そこには大宇宙を構成している統一的な法則が表れているはずであり、それは数学的にシンプルな形で証明されるはずだと考えたわけです。結果的にこの「音階」も、神秘学でいうところの、量的全体数12(半音の数)と、段階的全体数7(ドレミ音階)に還元されたことは注目に値します。

 

話を戻して、空間においては、小空間は大空間(つまり宇宙)を映したものでなければならず、その鍵は「黄金比」にあると考えました。

 

「黄金比(golden ratio)」の作図は、図のように、正方形abcdの一辺bcの中点oを基点に、odの長さの円を描き、bcの延長上と交わる点eを設定した時の長方形によって得られます。この短辺と長辺の比が「黄金比」です。この値は、終わりのない無限小数で、近似値は1:1.618となっています。

 

古代の建築(とりわけ神殿)は、この「黄金比」を基に各部が設計されていました。黄金比の美の特徴は、黄金比図形から正方形を取り除いた後に残る長方形もまた「黄金比」を示しているところにあります。ここからさらに正方形を取り除いて残る長方形もまた「黄金比」を示すということで、この関係が永遠に続きます。

 

ここに、宇宙の法則が完全に示されています。すなわち「下なるものは上なるもののごとく、上なるものは下なるもののごとし(As above, so below)」。(ヘルメス・トリスメギストスの『エメラルド・タブレット』に書かれてある有名な一句で、万物が相似形を為しているということを言っている)

 

だからこそ、それは美しく、心地よく感じることができるのです。そこには小宇宙が示されているからです。今日では、それはフィボナッチ数列との関係から、自然界(たとえば植物の葉っぱの付き方)に多く見られる現象であることも解っています。次のサイトに詳しい説明がありますので、ご興味のある方はご覧ください。

 

http://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/museum/golden/page62.html

 

さて、現代の建築家で、このようなことを考えている人が、いったいどれだけいるでしょうか。大都市に建つ建築物の大半が、奇を衒った、醜怪な塊になっています。国際コンペが盛んとなって、他とは違う自分のオリジナリティと、名声獲得を重んじるアーティストばかりが出現した結果です。こうして、世界中に居心地の悪いビルばかりがどんどん造られているのです。

 

 

近代建築では、フランスの建築家ル・コルビュジエが、モデュロール(Modulor)という基準寸法を作りました。コルビュジエの名は、家具デザインでもよく知られていますが(あなたも過去どこかで必ず眼にしたことがあるはず:右上写真)、人体寸法に黄金比を組み合わせてこの基準を作ったのです。

 

そして人体寸法といえば、天才レオナルド・ダ・ヴィンチの、円と方形を組み合わせた中に人体を描いた「人体図(Vitruvian Man)」を思い浮かべられるでしょう。

 

実はこの「人体図」は、紀元前の共和政ローマ期に活動した建築家ウィトルウィウスの『建築について』という理論書(現存する最古の建築理論書)の記述をもとに、ダ・ヴィンチが描き起こしたものなのです。

 

コルビジェは、このダ・ヴィンチ、そしてウィトルウィウスの人体寸法の考えに、さらに黄金比の神秘を見出したわけです。これは非常に理に適った考え方と言えます。

 

これまでにも何度も書いて来たように、人間というのは、小宇宙(マイクロコスモス)です。大宇宙(マクロコスモス)を映したものなのです。

 

ここで、両者が一致します。空間も、人間も、共に “As above, so below” という法則の上にあるということがお解りでしょう。ですから、それに逆らわずに表現されたものが、美しく、居心地がよいものとなるのです。ちなみに、「起きて半畳、寝て一畳」という日本の畳サイズも、優れた人体モデュールから出来上がっていると言えるでしょう。